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藤田道子「線上に眠る」展に寄せて


藤田道子さん(美術家)の『線上に眠る』展(at けぇどの会所/多摩市)に「食」として参加しています。同じく「音」として参加した扇谷一穂さん(音楽家)が収集/朗読をした様々な方の「眠り」や「夢」に係わる9つのストーリーが会場内で音声として流され、藤田さんの作品とともに展示されています。私は下記の文章を寄稿し、扇谷さんが音を付けて、朗読をしてくださいました。

 

料理では『一晩寝かせる』という言葉をよく使う。

私も夜の最後の作業として捏ねたパン生地を布に包んで「今日はここまで。おやすみ~」と、一晩寝かせるし、ジャムを作る時も前日の晩、果物に砂糖をまぶして一晩寝かせることが多い。昔お店で仕込んでいた「卵黄を味噌床に一晩寝かせる」なんかは、文字通り「床」という言葉が使われているほどで、調味した味噌に布団のようにガーゼをかけて、くぼみにそっと一つずつ卵黄を寝かせていくのだが、何列にも整列した卵黄を見ては、そっと「おやすみ~」と言わずにはいられない何かがあった。味噌床同様、糠床という言葉も一般的で、「床」一つの言葉で、綿々と受け継がれている感性を感じることができる。


「寝かせる」は、ただ素材を調味料になじませる/漬けることであり、ある一定の時間そのまま置いておく、つまり「放置」の工程なのだが、「パン生地を一晩放置します」では伝わらない、料理の肝心な部分が「寝かせる」には含まれている。


素材は生成と代謝を繰り返し、小さな呼吸をしながら有機的に変化をしている。私もまた同じように、同じ夜の下、呼吸を繰り返し、布団の中で眠る。そして、普段なら起きることのできない朝の目覚めも、パンを寝かせている日はよっこらしょとなんとか立ち上がることができるのだ。


 






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